1棟目の壁を越えていけ。 

監督デビュー!

和田組のヘルメットを初めて手にした日。
不安と、戸惑いと、期待と、根拠のない自信が
入り交じった少し複雑な心境。それでもやっぱり
うれしかったのは、大人になる権利を
もらえたような気がしたから。 
そこは、百戦錬磨の職人たちが
縦横無尽に動き回る巨大な建設現場。
ネジ1本にも満たない小さな存在には、
鉄とコンクリートに阻まれた
迷宮でしかない。右も左も分からない。
未来はまだ、描けない。
失敗を繰り返しながら、頭が真っ白になって、
逃げ出してしまいたくなることもある。
「お前が気にすることじゃないよ」
と肩を叩く先輩の優しさが痛かった。
カッと熱くなる悔しさを知った。

前へ進もう、と思った。
そうして、ひと現場ごとにできることが増えていく。
1mmの意味がだんだん分かってくる。
汗を流しながら、ふとした時に感じるわずかな手応えは
今までの自分にはなかったもの。
やり甲斐や誇りの種のようなもの。
自分ひとりの足で現場に向かった
3年目のある日、「監督」と呼ばれるようになった。
現場監督には「1棟目の壁」がある。
億単位のプロジェクトが
自分の指示ひとつで決まる重責に
眠れない夜もある。

昨日までの自分を振り切って、
壁に挑む静かな興奮は一生に一度。
越えた先に、未来が見えてくる。
追いつけないと思っていた背中が、
ぐっと近くなって、目線が合うようになる。
仲間と思える人たちに、応えたいと想う
真っ直ぐな気持ちが生まれる。

そうして、現場監督は頼られる存在になっていく。
「和田組」を名乗るハタチの覚悟がある。 
チームを守り、率いる者として
1日1日の無事を願い、祈る日々がある。
築き上げた窓の向こうに、
いくつもの幸せが生まれるように。
この街の景色を変えていく、まだ見ぬ未来に。